日本語を読めない日本人

西村博之(ひろゆき)は、日本最大級の匿名掲示板「2ちゃんねる」を創設した実業家で、最近はテレビやYouTubeなどのメディアにもよく出演し、歯に衣着せぬ「議論」を展開して、どんな相手でも論破してしまう「論破王」として活躍している、インフルエンサーである。

個人的には全く興味がなかったので、彼の発言をウォッチしていたわけではないのだが、偶然、ツイッター上で非常に興味深い「議論」を見かけたので紹介したいと思う。

 

ことの発端は小山(凍)という方のこのツイートである。

 

このツイートは、佐藤優(作家)が、ひろゆきを「ニヒリズムを身体化した思想家」と評したことを背景に、ひろゆきのように、「政治活動から距離をおいてコスパよく個人の幸せを追求しようとする生き方・考え方」を虚無主義であるとし、そのような生き方は「ダサい」と批評することを意図している。

 

このツイートに対してひろゆきが反応した。

 

何言ってんだかよく分からんが、要するに「おいら*の考え方・生き方は虚無主義なんかじゃない!」ということだろう。

*ツイッター上でひろゆきの一人称は「おいら」なのでそれに倣う

 

これに対し、小山(凍)は、ひろゆきの著書を引用して、反論する。

 

「生きる意味など存在しない」「いくら人間が頑張っても社会システム("大陸の形")は変えられない」という考え方は虚無主義でしょ、ということだろう。

 

さらに、ひろゆきが反論する。

 

「人間の社会運動で社会システム("大陸の形")が変えられる」と考える方が頭悪いでしょ!とのこと。

 

ここで、小山(凍)は、「銃・病原菌・鉄」の著書である、ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊」を引用して、「人々の社会運動が文明崩壊の原因になることもある」と反論する。

画像

 

ジャレド・ダイアモンドは、進化生物学者で、私も大好きなノンフィクション作家である。

銃・病原菌・鉄」は、「西欧列強が帝国主義時代に世界征服出来たのは白人が有色人種と比べて人種として優秀だから」という「白人優位の価値観」に対抗するため、地理関係や動物分布など、他の要因の重要性を説いた本で、めちゃくちゃ面白い。

 

ぶっちゃけ、「銃・病原菌・鉄」を読まないで社会人やっているやついる?

いねぇよなぁ? - 東京卍リベンジャーズ | アル

 

って感じである。

 

これに対してひろゆきは・・・

 

10年以上前においらが勧めてた本を出してくるレベルなの笑える←!?!?!?

 

ここまでの「議論」をまとめてみよう。

小山(凍)「いくら人間が頑張っても社会システムは変えられない!と最初から諦めている虚無主義ってダサくね?」

ひろゆき「人々の社会運動で社会システムを変えれるって思うほうが頭悪い!」

小山(凍)「ジャレド・ダイアモンドの本に、人々の社会運動によって文明が崩壊した(=社会システムが変わった)例があると述べられているよ。」

ひろゆき「は?おいらは10年以上前にその本を勧めてたから!」←!?!?!?

 

つまり、ひろゆきは、自分で内容を全く理解出来ていない本を「私の人生を変えた、この1冊」として自信満々にメディアで推薦していたことを自ら得意気に暴露しているわけだが、お前何言ってんの?って感じである。

 

さらに、ひろゆきのその10年以上前の記事を見に行くと・・・

 

なんと、「銃・病原菌・鉄」について勧めているが、「文明崩壊」についての言及がない。

つまり、赤字で追記すると、

小山(凍)「いくら人間が頑張っても社会システムは変えられない!と最初から諦めている虚無主義ってダサくね?」

ひろゆき「人々の社会運動で社会システムを変えれるって思うほうが頭悪い!」

小山(凍)「ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊」に、人々の社会運動によって文明崩壊した(=社会システムが変わった)例があると述べられているよ。」

ひろゆき「は?おいらは10年以上前に「銃・病原菌・鉄」を勧めてたから!」←!?!?!?!?!?!?

 

ここまで来るともはや全く意味不明である。

文章をよく読まないと恥をかくという典型例である。

 

そして、ようやく「銃・病原菌・鉄」ではなく、「文明崩壊」の話だと気づいたのか、ひろゆきから反論があった。

 

文明崩壊」の中でイースター島民は森林伐採で絶滅したと述べられてるが、島の形は変えてない!←!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

ひろゆきさん、まじで文章読めないの・・・?

 

もともとは、「人々の社会運動で社会システム("大陸の形")を変えれると考えるのは頭悪い!」というひろゆきの主張は虚無主義かどうか、が論点だったが、「社会システム」のたとえとして使用されていた「大陸の形」という単語が、いつの間にか、ひろゆきの頭の中で物理的な意味になっているようだ。

 

再び「議論」をまとめるとこうなる。

小山(凍)「いくら人間が頑張っても社会システムは変えられないと、最初から諦めている虚無主義ってダサくね?」

ひろゆき「人々の社会運動で社会システムを変えれるって思うほうが頭悪い!」

小山(凍)「ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊」に、人々の行動によって文明崩壊した(=社会システムが変わった)例があると述べられているよ。」

ひろゆき「は?おいらは10年以上前に「銃・病原菌・鉄」を勧めてたから!」

小山(凍)「いや、「文明崩壊」の話だから・・・

ひろゆき「「文明崩壊」にはイースター島民は過剰な森林伐採で滅んだって書いてあった!島の形は変わってない!」

小山(凍)「つまり人々の行動によって文明が滅んだ(=社会システムが変わった)ってことでしょ・・・」

 

一連のやりとりを見て、私は「へー、ひろゆきって、テレビとかいっぱい出ているし、本もいっぱい出しているけど、日本語読めない系の人だったんだー。」という感想を持った。

 

------

 

さて、これまで、ひろゆきに全く興味がなかった私だったが、この一連の「議論」を見てひろゆきが(ちょっとは)好きになった。

 

しかし、私の興味を最も刺激したのは、ひろゆきや、「議論」の内容よりも、この一連のやりとりに対して、ひろゆきのファンのものと思われるアカウントたちから送られてきている、大量のリプライである。


なんかひろゆきが相手を論破して勝ったことになってるくね?w

 

ひろゆきという一個人が日本語の読解力がないのであれば、「ま、そういう人もいるよね。」って話だ。

だが、一連の「議論」をみて、これほど大量の人たちが「ひろゆきが勝った!」「ひろゆきがまた論破した!」と認識しているのは大変驚いた。

 

ひろゆきが論破したって・・・

そもそもまともな「議論」にすらなってなくね?

この人達は日本人だよね?

もしかして日本語読めないの・・・?

 

------

 

仮にひろゆきがプロジェクトに入ってきて、チームのチャットに、上記の「議論」のような、意味不明なこと連投してきたら、私だったら、「は?お前何言ってんの?まずは文章をよく読めや。」と詰めたくなる。パラハラにならないようどのように改善すべきか具体的にかつ丁寧に伝えて指導し、部下の成長を促したくなる。

ひろゆきの日本語のレベルはそういうレベルである。

 

このレベルの人が「論破王」として世間に持ち上げられ、連日メディアで政治・経済・社会について語り、多くの人が「ひろゆき正論!」と彼の「議論」をありがたがっている。

彼の言語能力の低さを認識できないどころか、むしろレベルが高いと認識している、「日本語を読めない日本人」がこれほど多いとなると、義務教育の敗北を実感せずにはいられない。

 

そして、これは、何かデータがあるわけではないが、実感として、「日本語を読めない日本人」が、最近どんどん増えてきている気がする。

一見同じ言語で話しているようにみえるが、実際は、全く会話が成り立たない人たちである。

「A終わった?」

「今Bやってます!」

「だから、A終わった?」

「次はCをやります!」

的な会話をしてくる人たちである。

 

文字というのは、最初にシュメール人が開発してから、歴史上ずっと人類の進歩を支えてきた、文明の証である。

それは、人類が他の動物と決定的に違うと区別される重要な要素の一つである。

仮に、世代が進むごとに、文字を扱えない人が増えてきているとすると、それは、人間がどんどん動物に退化してしまっているということにならないだろうか?

これは大変危険なことだと思う。

 

なので、私は、文章を書くときも、読むときも、丁寧に行うことを心がけていきたい。

じゃないと猿になっちゃうからね!ウッキー!

 

-----


ちなみに更に「議論」は進み、元寇を「狩猟民族である日本 vs  農耕民族であるモンゴルの戦い」と捉える斬新な歴史観まで展開されて大変面白かったのだが、本稿では割愛する。

気になる人はひろゆきのツイッターを見に行かれると良い。

 

教養って大事よね、、、